有機EL

出典: BeansCM

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プロセス・インテグレーション プロセス 付着・表面修飾 分子・粒子成膜
プロセス・インテグレーション 精度・形状+寸法 膜厚 10nm〜100nm
プロセス・インテグレーション 材料 有機 その他
プロセス・インテグレーション 分類 ボトムアップ
プロセス・インテグレーション 応用 エネルギー関連(水素吸蔵、低炭素化)
プロセス・インテグレーション 応用 環境(低炭素化)
機能・製作用要素 機能要素 電気要素
機能・製作用要素 機能要素 光要素


目次

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さまざまなエレクトロルミネッセンス

有機発光材料とは、ある種のエネルギー刺激を与えられたとき、それに対する応答として光を放出する機能を有する有機材料を言う。有機材料の発光過程は一種のエネルギー変換プロセスとしてとらえることが出来る。刺激源である入力エネルギー種としては、機械エネルギー、光エネルギー、電気エネルギー、化学的エネルギー等多種多様である。それぞれの刺激に対応してメカノルミネッセンス(Mechanoluminescence)、フォトルミネッセンス(Photoluminescence)、エレクトロルミネッセンス(Electroluminescence)、ケミルミネッセンス(Chemiluminescence)と呼ばれている。各発光現象の詳細なプロセスには異なるところがあるが、共通している点はどんな発光現象でも有機分子が最終的に必ず高いエネルギーを持つ励起状態を形成し、そのエネルギーを光として放出し、エネルギー的に低く安定な基底状態に戻るプロセスを含んでいる点である。

有機ELとは

その中でも、エレクトロルミネッセンス(EL)とは、蛍光体に電気エネルギーを与えて励起させ、励起状態から失活する際のエネルギーを光として取り出す現象をいう。このエレクトロルミネッセンス現象を利用した発光素子に有機ELがある。有機ELは有機薄膜内にキャリアを注入し、蛍光色素上で再結合させて励起状態を形成し、発光を取り出すことからキャリア注入型ELと呼ばれる。その有機ELの研究は、1953年に有機色素を含む高分子薄膜に、高い交流電流を印加すると発光することを発見したA.Bernanoseの研究が始まりと言われている。A.Bernanoseは、この色素含有高分子薄膜からの発光が、既に知られていたキャリア注入を伴わない真性ELの一種である無機ELと同様の機構で起こると主張したが、この有機物からの発光は、放電に由来する紫外光によって、蛍光体が励起されての二次的発光であったと現在では理解されている。さらに、1960年代に入ってW.Helfrich等がアントラセン単結晶の両端に、アントラセンのアニオンラジカルとカチオンラジカルを含む溶液をそれぞれカソード、アノードとして用いて、電場を印加すると、単結晶からアントラセンのフォトルミネッセンスと同じ蛍光が得られることを示した。液体電極を介して有機薄膜にキャリアを注入し、アントラセンからの発光を取り出したこのW.Helfrich等の研究が、本当の意味での有機ELの研究の始まりといえる。 このように、有機ELはこれまで絶縁性と考えられていた有機物に電界を印加することによって注入された正と負のキャリアが、有機分子上で再結合して励起子を生成し、その輻射失活によって発光するという非常に興味深い現象を利用したデバイスである。そのため、様々な方法で高輝度・高効率化が図られたが、1970年代から1980年代前半は、有機薄膜を用いたキャリア注入型ELの模索が続いた。第一の課題は、キャリアの注入、特に電子の注入であった。光導電性材料としてポリビニルカルバゾールやトリフェニルアミン誘導体のホール輸送特性が見いだされて以来、ホールの注入および輸送が起こる有機材料は数多く報告されていたが、その有機材料の持つホールとの親和性のため電子の注入は起こりにくく、電子注入に有利な有機材料はほとんどなかった。さらに、有機物に電子を注入するために仕事関数の小さなアルカリ金属やアルカリ土類金属の固体電極が用いられたが、金属の活性が高く空気中で安定して用いることができなかった。第二の課題は、電界印加時の有機薄膜の安定性の不足であった。様々な有機色素の真空蒸着膜が有機ELに試みられたが、蒸着膜は目的とした単結晶とはならず微結晶集合体であり、電界印加時の絶縁破壊や放電現象が不安定性の原因であった。そこで、印加電圧を下げる目的でラングミュアーブロゼット(LB)膜を用いた超薄膜有機ELが試みられたが、思うような安定性は得られなかった。1980年半ばには、S.Hayashi等は積層型素子を作製しながら、その深い意味を読みとることができなかった。彼らは、蒸着ペリレン薄膜を用いた素子においてホール注入を改良するため、インジウム-スズ酸化物(Indium-Tin Oxide: ITO)透明電極と発光層であるペリレン層の間にポリチオフェン薄膜を導入したところ、著しいホール注入特性の改良がみられ、発光開始電圧が大幅に低下することを報告した。しかし、実際にはポリチオフェン膜の導電率が高くなかったため、当時はポリチオフェンをホール注入電極と見なし、絶縁性のホール注入・輸送層とは考えなかったため有機ELの二層型構造というアイデアには至らなかった。

有機ELのブレイクスルー

この研究の滞った状態を破ったのは、1987年にC.W.Tang等によって発表された100nmオーダーの有機超薄膜の積層構造を採用した有機EL素子である。彼らは、ITOガラス基板上にホール輸送層であるジアミン誘導体75nmと電子輸送層兼発光層であるTris(8-quinolinolate)aluminum (Alq3) 60nm、MgAg電極を順次真空蒸着して素子を作製した。この素子に順方向の電圧を印加すると、10V以下の低電圧で1,000 cd/m2を越える高輝度・高効率を示し、当時の有機ELとしては考えられない高性能の有機EL素子を実現した。その特徴は、

① 電子的・光学的性質が異なる有機薄膜を二層組み合わせたこと。

② 二層それぞれの厚さがそれまで考えられていた有機層よりも1桁程度薄いこと。

③ 電子注入には有利だが大気中で不安定だったマグネシウム電極に銀を少量混ぜ合金にすること

で電子注入特性を犠牲にせずに大気安定性を得たことと、有機物との良好な密着性を達成したこと であり、彼らの積層型有機EL素子の成功は様々な工夫の上に成り立っていた。このC.W.Tang等の報告は、有機ELのブレイクスルーと呼ばれるほど大きな影響を与え、この高輝度・高効率の有機ELの発表によって有機ELの研究は一気に加速された。 その後、C.Adachi等は発光層を電子輸送層とホール輸送層で挟んだ三層型構造を試み、さらにホール輸送層が発光層の機能をかねる新しい二層型構造の利用が可能であることを実験的に示し、C.W.Tang等の二層構造が必ずしも唯一可能な積層構造でないことを示した。 1990年代に入ると、さらに世界中の研究者によって有機ELの研究が活発に行われるようになった。C.Hosokawa等は新規材料を分子設計する立場から研究を展開し、ジスチリルアリーレン誘導体という一群の高性能の青色発光材料を発表した。Y. Hamada等はAlq3蒸着膜が優れた耐久性を持つことを重視して、それを出発点として新しい発光性の金属錯体を広範囲に探索し、いくつかの優れたEL材料を発見した。また、銅フタロシアニンやスターバーストポリアミンをITO電極とホール輸送層(TPD)の間に挟むことで耐久性が著しく向上させるバッファ層の考え方が提案されその研究も進んだ。さらに、これまで述べてきたキレート金属錯体などの低分子色素を用いた素子の発展と同様に、共役高分子材料もポリフェニレンビニレン(PPV)の単層薄膜で、キャリア注入型ELが観察されたのをきっかけに、ポリアリキルチオフェン(PAT)、ポリアルキルフルオレンなどが用いられるようになった。また、共役高分子を用いたELにおいても電子輸送性のオキサジアゾール誘導体を分散したポリメタクリル酸メチルを積層させて発光効率を向上させる試みも行われた。有機材料の探索とともに、赤(スペクトルのピーク波長約625nm)、緑(約520nm)、青(約460nm)に発光スペクトルを持つ色素を組み合わせることで白色ELの作製や、陰極電極にフッ化リチウムを挿入することで、著しく性能が向上した研究などがあった。さらに、有機ELを単なる発光素子としてではなく、素子にファブリペロー型ミラーを導入した微小共振器ELの作製や、電流励起による有機導波路型レーザーダイオードの実現に向けた厚膜素子の開発も研究された。そして、ついに1990年代終わりには有機ELの実用化が始まり、1987年のブレイクスルーから約10年間で有機ELは大きく発展し、実を結んだといえる。 最近の特筆すべき研究に、遷移重金属を用いたリン光性の発光材料の開発がある。プリンストン大と南カリフォルニア大のグループから、白金錯体やイリジウム錯体をドーパントに用いた有機ELから、室温で安定したリン光発光が取り出せることが報告され、リン光有機ELの研究開発が一気に進んだ。これまでにも、九大やNTTのグループによって、ベンゾフェノン誘導体やケトクマリンを用い、リン光発光の有機ELが確認されていたが、77Kの低温下に限られていた。彼らが作製した三重項励起子からの発光を利用するデバイスは、有機ELの一重項励起子からの発光を利用した理論上の最大量子効率である5%を越える8%を達成した。現在では、イリジウム錯体の積極的な開発や、ホスト材料の三重項励起エネルギー状態も徐々に明らかにされ、C.AdachiやS.Tokito等によって最適な素子構造を用いることによって、緑≓19%、赤≓~12%、青≓6~20%の非常に高い外部量子効率が実現され、特に、緑に至ってはほぼ理論限界の発光効率まで達している。


図1 フレキシブル基板上に作製した有機EL



文献情報,参考文献

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