圧電体薄膜を用いた振動発電に関する研究

出典: BeansCM

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安心安全快適デバイス 研究対象 デバイス


目次

概要

新たなクリーンエネルギー源として期待できる振動発電デバイスに関して
圧電体薄膜を用いたMEMSカンチレバーによる構造を模索した。
共振周波数やひずみについてのシミュレーションにより今後作製予定の設計寸法をいくつか考案すると共に
使用する圧電体材料としてPZT、AlN、KNNに関する調査を行った。今後はこの調査結果に基づいて実際にデバイスを作製、
その特性を評価し、超小型センサー端末の電源としての応用可能性を検討していく。

1.はじめに

新たなエネルギー源の創出は環境負荷低減志向が大いに高まった21世紀初頭の今、非常に求められている。
そのような状況で注目を集めるエネルギー源として環境振動がある。
これは人や機械の動きから生じる振動を使って発電を行うというもので振動発電と呼ばれる。
クリーンエネルギーとしては太陽光発電が最も代表的なものだが、
それと比べて暗所でも動作できるメリットと動きが発生しなければ動作できないデメリットを抱え
太陽光発電とは全く異なる応用先を持つため次世代電源の一つとして期待の持てる技術と言える。
振動発電の中でもここでは超小型センサー端末向けのMEMSデバイスによる発電を考える。
従来振動発電に対してそれほど人々の関心が向かなかった背景には
振動発電の発電量がたかだか数十μWに留まっていることが影響している。
しかしながら超小型センサー端末の消費電力は昨今急激な勢いで減少しておりそのような低消費電力ならば
MEMS振動発電で電力を十分賄うことが可能となるためである。
振動発電デバイスの構造は図1のようになっている。先端に質量体を取り付けたカンチレバーを振動させることで
カンチレバー上に張り付けた圧電体からエネルギーを取り出し、
それを様々なセンサー端末の電源として用いることができる。
 本中間報告においてはこの振動発電デバイスにおける構造と共振周波数や破壊特性のシミュレーションを行い
最適な構造を模索すると共に、圧電体材料に関する調査を行い振動発電に最適な材料を選定する。


2.作成方法

デバイス構造自体は一般的なカンチレバー構造と同様であり特別な工程は必要としない。
プロセスフローとしては図2のようなものとなる[1]。基板はSOIウェハを使用し、
その上にPt/Ti電極をスパッタリングで、PZTをゾルゲル法で成膜する。
その後マスクを用いて電極とPZTをパターニングする。続いてカンチレバー部分を切り出した後、
バックサイドエッチングによってカンチレバー構造を完成させる。エッチングにはPt/Ti電極の場合Arイオン、
SiO2の場合CHF3によるRIE、Siの場合SF6によるRIEを用いてドライエッチングを行った。 PZTにはHF、HNO3、HCl混合溶液によるウェットエッチングを行った。
 こうして作製したデバイスの電極部分から発生電圧を取り出すが、現在デバイスの作製は完了していないため、
デバイスの特性に関してはシミュレーションによる結果を示す。





3.シュミレーション

■3.1. 共振周波数特性

寸法設計については図1における寸法パラメータを調節することで行う。
今回幅wは影響が小さいものとして100μmに固定、質量体厚さhmは基板の厚みに依存し変更し難いため500μmに固定する。
そこで質量体長さα、カンチレバー長さL、カンチレバー厚さhSiを中心にシミュレーションを実行する。
シミュレーションにはMemsONE(マイクロマシンセンター)を用いた。
 共振周波数のシミュレーション結果は図3のようになった。
これによるとαとLは大きいほど、hSiは小さいほど共振周波数は下がる。
これはこのカンチレバーを先端に質量が集中した片持ち梁として計算した場合の理論値にほぼ一致する。
極値が存在しないためこれらの値の最適解は共振周波数の視点から得ることは出来ない。
だが、αとLのグラフ形状からある程度以上長くしても効果は薄いことがわかる。適当な所をとって表1のように2種類の寸法を取り出した。


■3.2. 破壊特性 より長く、薄いカンチレバーほど共振周波数自体は小さくなるがその分脆くなり破壊されやすい。
どの程度破壊されやすいか定量的に評価するためカンチレバー部分の最大主ひずみをシミュレーションした。
先の二つの寸法においてシミュレーションした結果が図4である。左は表1上段の設計寸法で、
1G加振した場合共振時にεm=5.9%の最大主ひずみとなった。同様にして右は表1下段の設計寸法で共振時に10.7%の最大主ひずみとなった。
右では加振加速度を半分の0.5Gでもシミュレーションを行ったが最大主ひずみと加振加速度はほぼ比例していてこちらも半分になった。
Siの破壊ひずみが4%とすると図4からどちらの条件でも共振周波数を除いて十分破壊されない強度があると言える。
 これらの結果をまとめたものが表1である。現状はより共振周波数が低い2番目の構造を採用する方針である。


4. 圧電体材料の考察

MEMSのアクチュエータ応用は未だにPZTが中心であるが、新規材料の研究も盛んである。ここではPZTに加え
AlNとKNNについてその特性と振動発電への応用を検討する。
諸特性は表2に示した[2-3]。AlNはPZTに比べ圧電定数|e31|も誘電率εrも極端に小さく
ヤング率Eが大きいため振動もしにくい。
しかしながらその材料が非常にありふれたものであることと誘電損失tanδが小さいことから環境負荷が小さい。
発電量は期待できないが応用先次第である。KNNはPZTに匹敵するだけの|e31|、
εrを誇る新材料であるが研究の歴史が浅く安定した成膜に至っていない。
振動発電の使用環境はメンテナンスフリー前提の過酷な環境となりやすいため素材を安定して成膜できるようになるまで
振動発電応用は厳しいものと考えられる。



















5.まとめと今後の予定

振動発電用カンチレバーの寸法を決定するため共振周波数とひずみの観点からシミュレーションを行った。
また振動発電に使用する圧電体材料としてどの材料を用いるべきか考察を行った。
今後は特性の中で最も重要と考えられる発生電力特性をシミュレーションするための理論式を計算し、
2.で示した手法によりカンチレバーを作製する。その後試作したサンプルの評価を行いシミュレーションの精度を検討する。
 振動発電素子の応用先としては現状共振周波数が100~200Hzのものとなると予想されるため
環境に存在する振動の中で最も適したものを見つけることもまた非常に重要な課題である。

参考文献

[1] T. Kobayashi et al., “A Digital Output Accelerometer Using MEMS-based Piezoelectric Accelerometer Connected to Parallel CMOS Circuit”, Proc. Eurosensors XXIV, 2010
[2] S. Trolier-Mckinstry and P. Muralt, “Thin Film Piezoelectrics for MEMS”, J. elec., 2004
[3] K. Shibata et al., “Piezoelectric Properties of (K,Na)NbO3 Films Deposited by RF Magnetron Sputtering”, Appl. Phys. Exp., 2008

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