エレクトレット膜

出典: BeansCM

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機能・製作用要素 機能要素 アクチュエータ・トランスデューサ要素 発電要素
機能・製作用要素 機能要素 アクチュエータ・トランスデューサ要素 その他


目次

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 エレクトレットは,電荷を閉じこめた絶縁体であり,真の電荷が注入されている場合と, 電気双極子が一定方向に向くことにより,表面電位が生じる場合に大分される.

 1924年にエレクトレットの作製方法を世界で初めて発見したのは,海軍大学校の教官だった江口元太郎である. 江口は,カルナウバ蝋と松脂の混合物に電界を掛けながら昇温し,冷却後に電界を取り去る方法を考案した (Eguchi, 1925).この方法は,熱的荷電法と呼ばれる.その後,1960年に,当時Bell研究所にいたG. Sessler (現Darmstadt大学)によってエレクトレット・マイクロホンが発明され,FEPなどのフッ素樹脂を用いた エレクトレット・マイクロホンは,現在でも広く利用されている(Sessler, 1998).

エレクトレット材料の誘電率を epsilon, 体積抵抗率をhoとすると,RC時定数で見積もられる放電特性時間auは,

au = epsilon * ho

と書くことができ,例えば,PTFEの物性値を代入すると,auは僅かに20日程度となる. 実際には,江口と同様の方法で作製したエレクトレットの表面電荷密度が,36年後もほぼ同じだったという 報告もある(Takamatsu, 1991).何故,このような長期間電荷が減衰しないかについての物理機構の 詳細は不明であるが,電界により膜内のキャリアが消滅してしまうというモデルも提案されている(Malecki, 1999).

エレクトレットは,MEMS分野での応用例が増えてきており,マイクロフォン(Hsieh et al., 1997), 発電器(例えば,Boland et al., 2003)の他,gamma線センサ(Son & Ziaie, 2006), 静電浮上(Tsurumi et al., 2008),液滴アクチュエータ(Wu et al., 2008)などが検討されている.

製法

マイクロマシン技術と整合のあるエレクトレット膜としては,SiO2,SiO2/SixNy積層膜などの無機膜(例えば,Amjadi, 1999),および, フッ素樹脂などの有機膜(例えば,Sessler, 1997)が用いられている.無機膜は,電荷の熱的安定性に優れ,エレクトレットとしての特性を示す 表面電荷密度(単位:C/m^2)が高いが,一般に不純物による性能劣化や経時安定性が問題であり, また,成膜温度などプロセス上の制約が大きい.一方,有機膜は,電荷の熱的安定性が劣るが,厚膜化が容易であるために 表面電荷密度が低くても無機膜と同等あるいはそれ以上の表面電位が実現可能であり,プロセスや容易である. 有機膜の場合,ガラス転位温度以上では電気双極子がある程度自由に動ける状態となるため,電荷の熱的安定性の向上には, 真電荷の注入が望ましい.

エレクトレットの荷電方法としては,熱的荷電の他,コロナ放電,接触荷電,電子ビームなどが知られるが, 工業的にはコロナ放電が用いられることが多い.最近では,軟X線荷電真空UV荷電など,新しい荷電方法も開発されてきている.

測定手法(装置、試験片)と結果

 マイクロマシン技術と整合のある有機エレクトレット膜としては,DuPont社のTeflon AF(R)が知られている.Teflon AFは スピンコートにより容易に成膜が可能な,アモルファス・フッ素樹脂であり,MEMSマイクロホン(Hsieh et al., 1997), エレクトレット発電器(Boland et al. 2003)などにも用いられている.また,Parylene AF4などもエレクトレットとしての性質を持つ(Lo & Tai, 2008).

 最近,旭硝子社製のCYTOP(R)がTeflon AFよりも高性能な有機エレクトレット膜材料であることが判り,Teflon AFよりも3倍の 表面電荷密度を得られている(Tsutsumino et al., 2006).また,CYTOPにアミノシランを添加剤として加えることにより,15umの膜厚において 5倍程度表面電荷密度が高く,また,電荷の熱的安定性にも優れるエレクトレット材料(CYTOP-EGG)が開発されている(Sakane et al., 2008; Kashiwagi et al., 2011).

文献情報,参考文献

1) Eguchi, M., 1925, “On the Permanent Electret,” Philosohical Magazine, Vol. 49, pp. 178-192.

2) 例えば,G. Sessler, Electrets, 3rd ed., Laplacian Press, 1998.

3) Takamatsu, T., 1991, “Life Time of Thermal Electrets of Carnauba Wax, Esters, Fatty Acids and Alcohols,” Proc. 7th Int. Symp. Electrets (ISE7), Berlin, pp. 106-110.

4) Hsieh, W.H., Hsu, T.-Y., Tai, Y.-C., 1997, "A Micromachined Thin-film Teflon Electret Microphone," Proc. Int. Conf. Solid State Sensors Actuators (Transducers '97), Chicago, pp. 425-428.

5) Malecki, J. A., 1999, "Linear Eecay of Charge in Electrets," Phys. Rev. B, Vol. 59, pp. 9954-9960.

6) Sessler, G. M., 1997, "Charge distribution and transport in polymers," IEEE Trans. Dielect. Elect. Insul., Vol. 6, pp. 102-108.

7) Amjadi, H., 1999, "Charge Storage in Double Layers of Thermally Grown Silicon Dioxide and APCVD Silicon Nitride," IEEE Trans. Dielect. Elect. Insul., Vol. 4, pp. 614-628.

8) Boland, J., Chao, C.-H., Suzuki, Y. and Tai, Y.-C., 2003, "Micro Electret Power Generator," 16th IEEE Int. Conf. Micro Electro Mechanical Systems (MEMS2003), Kyoto, pp. 538-541.

9) Son, C., and Ziaie, B., 2006, "A Micromachined Electret-based Transponder for In-situ Radiation Measurement," IEEE Electron Device Lett., Vol. 27, pp. 884-886.

10) Tsutsumino, T., Suzuki, Y., Kasagi, N., Sakane, Y., 2006, "Seismic Power Generator Using High-Performance Polymer Electret," 19th IEEE Int. Conf. Micro Electro Mechanical Systems (MEMS2006), Istanbul, pp.98-101.

11) Lo, H.-W., and Tai, Y.-C., 2008, "Parylene-based Electret Power Generators," J. Micromech. Microeng., Vol. 18, 104006.

12) Sakane, Y., Suzuki, Y., and Kasagi, N., 2008, "Development of High-performance Perfluorinated Polymer Electret and Its Application to Micro Power Generation," J. Micromech. Microeng., Vol. 18,104011, 6pp.

13) Tsurumi, Y., Suzuki, Y., and Kasagi, N., 2008, "Non-Contact Electrostatic Micro-Bearing Using Polymer Electret," 21st IEEE Int. Conf. Micro Electro Mechanical Systems (MEMS2008), Tucson, Arizona, pp. 511-514.

14) Wu, T., Suzuki, Y., and Kasagi, N., 2008, "Electrostatic Droplet Manipulation Using Electret as a Voltage Source," 21st IEEE Int. Conf. Micro Electro Mechanical Systems (MEMS2008), Tucson, Arizona, pp. 591-594.

15) Kashiwagi, K., Okano, K., Miyajima, T., Sera, Y., Tanabe, N., Morizawa, Y., and Suzuki, Y., “Nano-cluster-enhanced High-performance Perfluoro-polymer Electrets for Micro Power Generation,” J. Micromech. Microeng., Vol. 21, Issue 12, No. 125016, (2011).

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